2025年7月3日に発表された6月の米雇用統計について、メディアでは「雇用者数が予想上回り堅調」といった報道が目立ちました。しかし、数字の表面だけを見ていては、米労働市場の真の姿を見誤る可能性があります。

💡「良いニュース」として報じられることが多い雇用統計ですが、今回は特に「中身」をしっかり見る必要がありそうです。
表面的には堅調に見える6月雇用統計の数字
まず、市場で注目された主要な指標を整理してみましょう。
主要指標の結果
指標 | 結果 | 市場予想 | 前月 |
---|---|---|---|
非農業部門雇用者数 | +14.7万人 | +11.1万人 | +14.4万人 |
失業率 | 4.1% | 4.3% | 4.2% |
平均時給(前月比) | +0.2% | +0.3% | +0.4% |
労働参加率 | 62.3% | – | 62.4% |
これらの数字だけを見ると、確かに雇用者数は市場予想を上回り、失業率も改善しているように見えます。

📊 でも待ってください。この数字の「内訳」を見ると、全く違う景色が見えてきます。
雇用増加の実態:政府頼みの構造が鮮明に
政府部門が雇用増加の半分を占める異常事態
今回最も注目すべきは、雇用者数増加14.7万人のうち、なんと7.3万人が政府部門によるものだったという点です。これは全体の約50%にあたります。
雇用増加の内訳分析
- 政府部門:+7.3万人(全体の約50%)
- うち教育関連:6.4万人(特殊要因)
- 民間部門:+7.4万人のみ
特に州・地方政府の教育関連雇用が6.4万人も増加していますが、これは季節調整の特殊要因によるものと考えられ、持続性には疑問符が付きます。

⚠️ 健全な経済成長なら民間部門が雇用創出の主役になるはずですが、今回は完全に政府頼みの状況です。これは経済の基礎体力の弱さを示していると言えるでしょう。
民間部門の業種別状況は更に深刻
民間部門7.4万人の増加も、業種を詳しく見ると課題が浮き彫りになります。
- 教育・医療サービス: +5.1万人(相変わらず堅調)
- 娯楽・接客業: +2.0万人(低賃金セクター)
- 製造業: マイナス(関税の影響顕著)
- 卸売業: マイナス(流通業界の縮小)
失業率改善の「からくり」:労働市場からの退場者増加
労働参加率低下の深刻な意味
失業率が4.2%から4.1%に改善したことは一見朗報に見えますが、その背景には労働参加率の低下があります。
労働参加率が62.4%から62.3%に低下したということは、働くことを諦めて労働市場から退場する人が増えていることを意味します。これは決して健全な改善ではありません。

😟 失業率が下がったのは「雇用が改善したから」ではなく、「働くことを諦めた人が増えたから」という可能性が高いです。これは非常に憂慮すべき状況です。
外国生まれ労働者の継続的減少
特に注目すべきは、外国生まれの労働力人口が3ヶ月連続で減少していることです。これはトランプ政権の移民政策の影響が労働市場に現れ始めていることを示唆しています。
賃金動向に見る労働市場の実力低下
平均時給の伸び率が大幅鈍化
賃金面でも労働市場の実力低下が鮮明になっています。
期間 | 前月比 | 前年同月比 |
---|---|---|
6月 | +0.2% | +3.7% |
5月 | +0.4% | +3.8% |
市場予想 | +0.3% | +3.9% |
前月比では0.4%から0.2%へ半減し、市場予想の0.3%も大きく下回りました。これは労働者の交渉力低下を示しています。

💰 賃金の伸び鈍化は、企業が人材獲得競争を控えていることを示します。つまり、労働需要そのものが弱くなっているということです。
労働時間短縮も同時進行
週平均労働時間も34.3時間から34.2時間に短縮されました。これは企業が雇用維持のために労働時間を削減していることを示唆し、隠れた雇用調整が進んでいる可能性があります。
関税政策の影響が本格顕在化
製造業への直撃弾
今回の雇用統計で最も深刻なのは、製造業雇用の減少です。これは明らかに関税政策の影響と考えられます。

🚛 関税により原材料コストが上昇し、同時に輸出競争力も低下。製造業企業は人件費削減で対応せざるを得ない状況に追い込まれています。
サプライチェーンへの波及
卸売業の雇用減少も、関税による流通業界への影響を示しています。貿易量の減少がサプライチェーン全体に悪影響を与えている構図が見えてきます。
FRBの政策判断への影響
表面的数値がFRBの判断を複雑化
今回の雇用統計は、FRBの政策判断を更に複雑にする可能性があります。表面的には雇用の堅調さを示しているため、早期利下げ論は後退する可能性があります。

🏦 FRBは「関税の影響を見極める時間的余裕がある」と判断し、利下げを更に先送りする可能性が高まりました。
次回重要指標は7月15日のCPI
労働市場の解釈に余地が残った今、FRBの次回判断は7月15日発表の消費者物価指数(CPI)により重点が置かれることになるでしょう。
投資戦略への示唆
セクター別投資戦略
今回の分析を踏まえた投資戦略を考えてみます。
推奨投資戦略
- 避けるべきセクター: 製造業、輸出関連企業
- 注目セクター: 医療・教育サービス、国内消費関連
- 政策注視: 関税政策の動向次第で大きく変動
為替戦略
ドル円については、表面的な雇用統計の堅調さがドル買い要因となる一方、質的悪化が判明すればドル売り圧力となる可能性があります。

💱 今後は雇用統計の「表面」ではなく「中身」を見極める投資家が勝ち残ると予想されます。
まとめ:見せかけの好調に惑わされるな
6月の米雇用統計は、確かに表面的な数値では市場予想を上回る結果となりました。しかし、その内実を詳しく分析すると、米労働市場の質的悪化が着実に進行していることが明らかになります。
重要なポイントの再確認
- 雇用増加の約半分が政府部門(持続性に疑問)
- 失業率改善は労働参加率低下による(真の改善ではない)
- 賃金の伸びが大幅鈍化(労働需要の弱さを反映)
- 製造業等の雇用減少(関税政策の悪影響顕在化)
今後の米労働市場は、関税政策の影響が更に拡大する中で、政府部門頼みの雇用創出という不健全な構造が続く可能性が高いと考えられます。投資家はこうした構造変化を前提とした戦略立案が求められるでしょう。
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