リスクオフの円買い:金融市場における安全資産メカニズム

金融

リスクオフの円買い

市場が混乱し、投資家が不安を感じるとき、特定の通貨や資産が買われる現象が発生します。その中でも「リスクオフの円買い」は長年にわたって金融市場の特徴的な動きとして知られてきました。この記事では、リスクオフの円買いがどのような構造で発生するのか、そのメカニズムを詳しく解説します。

リスクオフとは何か

「リスクオフ」とは、投資資産をリスクが高めの資産からリスクが低めの資産に移す動きのことを指します。具体的には、投資家がリスクを極力回避しようとする行動を意味しています。

対義語は「リスクオン」で、リスクが高い投資対象に資産を移し、多少のリスクを抱えても積極的に高いリターンを狙おうとする市場の状態を表します。

投資家がリスクを抑えたくなるのは主に相場の先行きが懸念されるときです。例えば、株式相場が大幅に下落すると予想される場合、投資家は保有株式の価値低下を避けるために株式を売り、相場の下落の影響を受けにくい資産への移行を図ります。

 

リスクオフの円買いのメカニズム

「リスクオフの円買い」とは、市場の先行きが不透明になったとき、投資家が「安全資産」と認識されている日本円を買う動きのことです。特に戦争などの有事の際は相場の先行きの不透明感が一気に高まるため、「有事の円買い」とも呼ばれています。

このメカニズムが機能するのは、次の構造によるものです。

  1. 市場で不確実性や危機が高まると、投資家はリスク資産(株式など)を売却する

  2. その資金を安全と見なされる資産に移動させる

  3. 日本円が安全資産として認識されているため、円の需要が増加する

  4. 需要の増加により円の価値が上昇し、円高になる

この現象は長年にわたって金融市場の「常識」となり、歴史的な経験則から「相場格言」としても定着していました。

日本円が安全資産として選ばれてきた理由

 

なんで毎回、円が安全資産として選ばれるのかしら

日本円が安全資産として認識されてきた背景には、いくつかの重要な経済的要因があります。

1.貿易黒字の維持

日本円が安全資産と見なされてきた主な理由の一つは、日本の貿易収支が長期間にわたって黒字を維持してきたことです。貿易黒字は、貨幣の需給関係上、円の価値が低くなりにくい状況を作り出しました。

2.経済的安定性

日本は債権大国であり、経常収支も黒字を維持してきました。また、インフレ率が低く、通貨の価値が長期間安定しやすいという特徴があります。

3.世界一の対外純資産保有国

日本は長年にわたり世界最大の対外純資産を保有しており、海外資産を売却して、円に戻す動きが有事に発生しやすいと考えられます。

日本は世界にお金を貸してる金額から、借りている額を引いたら約500兆円もあるんだワンっ!

 

 

歴史的事例におけるリスクオフの円買い

過去の歴史を振り返ると、大きな危機や不確実性が生じたときに「リスクオフの円買い」が実際に発生した事例が以下の出来事のように多く見られます。

2001年9月に米国で同時多発テロが発生した際、ドル円相場は円高方向に約4円近く動きました。

2008年のリーマン・ショック発生後、その年の9月から12月にかけてドル円相場は20円以上も円高方向に振れました。

2011年3月に発生した東日本大震災の後、3月から10月にかけて7円以上の円高が進みました。

2020年の新型コロナウイルス感染拡大が起きた際も、3月から12月にかけて6円以上の円高となりました。

これらの事例は「リスクオフの円買い」という相場格言が実際の市場動向として機能していたことを示しています。

変化する円の地位:最近の傾向

興味深いことに、2022年のロシアによるウクライナ侵攻では、従来の「リスクオフの円買い」とは反対の現象が起こりました。有事にもかかわらず円高にならず、むしろ円安方向に為替レートが動きました。

安全資産としての地位の変化

この現象の背景には、安全資産としての日本円の地位に変化が生じている可能性があります。

貿易収支の悪化:近年、日本では貿易赤字となる月も出てきており、安全資産としての円の信頼性が揺らぎつつあります。

製造業の海外進出: 従来の貿易黒字を牽引してきた製造業が安価な労働力などを求めて海外に拠点を設けるケースが増え、「日本から海外」という工業製品の輸出ルートが変化しています。

エネルギー輸入の増加:東日本大震災後、国内の原子力発電所による発電量が減少し、火力発電のための化石燃料の輸入が増加。これが貿易黒字の縮小につながりました。

資源価格の上昇:ロシア・ウクライナ情勢の悪化に伴い、原油や天然ガスの先物価格が高騰。化石燃料を多く輸入する日本の貿易収支のさらなる悪化が懸念されています。

リスクオフの円買いの今後

「リスクオフの円買い」という経験則が今後も有効かどうかについては、まだ断定できません。ロシアによるウクライナ侵攻での円の動きが例外的なものなのか、それとも新たな傾向の始まりなのかを判断するには、次の有事や経済危機での為替レートの動きを観察する必要があります。

安全資産としての通貨の地位は固定的なものではなく、国の経済状況、政治的安定性、財政政策、金融政策などの要因によって変化します。日本円が今後も安全資産として認識され続けるかどうかは、日本の経済政策や世界情勢の変化によって左右されるでしょう。

まとめ

「リスクオフの円買い」は、世界の金融市場で不確実性や危機が高まったときに、投資家がリスク資産を売却して日本円という安全資産を購入する現象です。これは日本の長期的な貿易黒字や経済的安定性によって支えられてきました。

しかし、近年の経済構造の変化や資源価格の高騰などにより、安全資産としての日本円の地位には変化の兆しが見られます。今後も「リスクオフの円買い」が市場の鉄則として機能し続けるかどうかは、引き続き注目すべきポイントと言えるでしょう。

金融市場は常に変化し続けるものであり、過去の経験則が永続的に有効とは限りません。投資家は市場環境の変化に応じて、柔軟に戦略を見直していく必要があるでしょう。

 

 

 

 

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